2018年11月29日
【英語教育】男子中学生に英詩を書かせる
「フィフティーン」という本をご存知でしょうか?
中嶋先生、柳瀬先生らが共著で書かれている本ですが、中学三年生が書いた英詩と、それをプロの翻訳家(幸若さん)が和訳したものが掲載されてます。
10年前に読んだ本ですが、素敵な取り組みだなあという気持ちがある一方で、自分には難しいかなという相反する気持ちもありました。
表現系のタスクを生徒に与えても、
①僕自身が技術的に指導する自信がなく、
②年頃の男子生徒に内面を出せる難しさや
③そのプロダクトへの評価の難しさ
という3つの理由で6年前担当生徒が中3だったときには見送ってしまいました。
しかし、僕も教員10年目になり、そのあたりを克服する術を身につけて、今の中3には何とか50語以上の英詩を書かせて発表までこぎ着けたので、そのやり方について残します。
活動名はMasquerade Recitation(仮面朗読会)です。ではどうぞ!
Masquerade Recitation(以下MR)は以下の発想で生まれました。
①男子中学生が英詩に本気で取り組まない理由があるとしたら、それは内面をさらけ出して書く英詩を読んだ他の人がからかったりしてくるかもしれない。
②そうなると、いくら教員が良いものを選んで発表すると言っても、実名が出る時点で彼らが全員本気で書くとは思えない。かといって教員以外の他者に見せなければただの自己満足で終わってしまう。
③では、匿名で全員書いてもらって、その良し悪しを決めるのは教員ではなく、同じ年代の生徒に決めてもらおう。選ばれたものには定期テストに加点をすることで、書くモチベーションを上げてもらう。
④しかし、同じクラスではどうしても「誰某がこれを書いた」とかいう情報が回るので、他クラスと交換しよう。班で一つ選ばせ、せっかくならその班が選んだ詩を暗唱して皆の前で発表し、最高の和訳を添えさせよう。交換したクラス同士で発表会を行えば、「次は自分の詩が読まれるかも」という期待感もあっていい雰囲気になりそう!
ということで、「仮面舞踏会」ならぬ、「仮面朗読会(Masquerade Recitation)」を開催するに至りました。
具体的指導は以下の通り。
①告知
「MRやるよ」という告知と、『フィフティーン』から英詩を6本と和訳に挑戦させるコーナーをコピーしたものを配り、実際に和訳させてみて日本語の奥深さに気づかせる。
②~④技術指導
作文、エッセイではなく詩となるために有効な技術を教える……というと専門の方に怒られそうですが、隠喩、擬人法、音韻について教え、その日のうちに4文の短い詩を作らせて提出させました。(提出しなければテストから1点減点、クラスによっては授業残り5分で解説始めて「残りは各自でよろしく!」だったので、雑な面も多くありました。)
毎回良いものを数点選び、Wordに僕が打ちこんで、全員に配りました。
⑤本英詩作成
1週間ほど期間を取って50語以上70語以下の英詩を作成させ、提出させます。(提出できなければテストから3点減点と伝えました。)
⑥本英詩入力と印刷
PCルームを使います。集めた原稿を返却し、Wordファイルに入力させ、フォントや書体を自分で選ばせて見映えよくさせます。また、スペルミスや表記のミスがWordに赤線と緑線で表示されるからそれを各自で修正し、全て整った人からA4で印刷、裏に記名をして提出します。
この工程は元々考えてませんでしたが、練習の段階でかなりスペルミスや文法ミスが多かったこと、そして字の良し悪しで作品の印象が変わってしまうことを防ぐために行いました。結果として大事な工程だったと思います。
⑦発表用英詩選定
打ち出した英詩をクラス毎に全て面付けで印刷し、班の数だけ印刷します。
それを2クラス間で交換し、班毎(5~6名)に一つ良いものを選ばせます。生徒には、「英詩の和訳と観賞のポイントを発表してもらうから、適当に選ぶと苦労するよ」と伝えました。
またその発表も評価して、良かったらテストに加点(最大3点)すると伝えます。
評価のポイントは①聞き取りやすさ②和訳の美しさ③観賞ポイントの説得力です。
⑧本番
講堂ステージで2クラス合同発表します。英詩は暗唱、和訳と解説は日本語でメモを途中で見ても構わないと伝えました。
発表順は既に決めておいて、前の班が発表始めたら次の班は袖に待機させていきます。時間は出入り含めて一班3分。(2クラス16班なのでギリギリかと思いましたが、実際どの班も2分程度でしたので、思ったより余裕はありました。)
僕は後ろに座ってタイムキーパーと評価をその場で行います。全ての発表が終わったら班長に評価用紙を取りに来させて総評を伝えて終了です。
⑨和訳をメール添付(←今ここ)
ここでもう一仕事。班の代表が和訳をメール添付で僕に送ってもらいます。タイトル、文面は全て提示しておくので、それを丸写しするように伝えます。(大学生になったときに目上の人にメールを送る際の最低限のマナーを知ってもらえればと思ってます。)
僕はそれを片端から印刷します。
⑩文集作成
クラス毎に文集を作成しますが、選ばれたものは全クラスの文集に各班が考えた最高の和訳を添えて掲載します。思い出になればいいですね。
以上Masquerade Recitationの具体的指導手順でした。
『フィフティーン』には非常によく出来た英詩が載っていますが、よく見ると9割方女の子が書いたものです。脳的にも成長的にも女の子の方が得意な分野だし、大御所の先生が教えられてるので、「差があって当然」と開きなおってやってみました(笑)
『フィフティーン』には指導方法は書いてないので色々と「思考」錯誤しましたが、やってみると思った以上によく書いてきたなあという印象です。和訳もよく考えてあり、日本語と格闘した様子がどの班にもありました。
6年前の僕にはさせてあげられなかったことが今出来るようになったという意味も含めて、とても意義深い活動になりました。